今回、民宿かわはらが「ワームが泊まりたい宿」において最高金賞を受賞したのでここに報告しておく。なお、ワタシの知る限りこの賞は過去に発行されたことはない。それほど栄誉なことなのだ。

まずは外観を見てみよう。正面から見るとモダンさとレトロを融合した見事な佇まいだ。とても狙ってはつくれまい。歴史とハイカラさが必要なのだ。大胆にひらがなで書かれた金のフォントにみなぎる生命力を感じる。

側面に回ると、和風の棟が繋がっている。我々が泊まるのもこちらになる。和洋折衷とはこの様なことを言うのだ。決してオシャレぶったホテルの広い部屋の一部に畳を敷いただけで気軽に名乗るべきではない。建物ごと折衷するのが本場の証だ。覚えておくように。

驚くことに、電話ボックスが設置されていた。どこまでセンスが良いのかと胸を躍らせながら中に入ってみる。

内部はオーソドックス。まるでタイムトラベルの様な気持ちに。

部屋は開放的。散らかさせていただく。

ちょっとした遊び心に「クスッ」

眼下に広がる本物の海鮮たち

お分かりいただけるだろうか。
夕食一見して普通の料理に見えるが、これはとんでもないご馳走だった。順を追って振り返ってみよう。

定番の刺身だが、全て地場のもの。臭みがないだけではなく、ネットリと絡みつく。うーん、美味。
美しく輝くサーモンを戴く。甘みがあり、臭みは無い。ほんのふたきれだが、その記憶は舌の琴線を軽く弾く。養殖らしいが、かなり美味しい。指をパチリと鳴らす。いささかはしゃぎすぎたかな。気を良くして鯛を戴くと、コリッとした食感が心地よい。程よい新鮮さが味を引き立てる。いよいよ盛り上がってきたところで、エビを戴く。うーん、甘い。鼻を抜ける心地よい磯の風味も手伝って、口の中から波音が聞こえてきそうだ。
・・・目の前ではナナハン君がブヒブヒ鼻を鳴らしてビールを飲んでいる。下品だ。

何かの魚。美味い。

ホタテに味噌が乗っている。優しいお味。
気を取り直して帆立を食べてみる。火の入れ加減が絶妙だ。食感を飛ばしすぎず、風味をつける様に火入れされた上に薄味の味噌が添えてある。全てのちから加減が高次元にバランスされていて、頬が緩む。帆立の食感は大袈裟にプリプリ感を演出されずに柔らかく処理され、味噌も味を押し付けない。コレは美味い!
・・・ナナハン君は「米まだかァ?」と、赤い顔で言っている。あの様子でこの料理をテイスティング出来るのだろうか。

食事の途中で、今採ってきたばかりのイカが出てきた。食事に間に合ってよかったというほど「今」らしい。

口に入れると、舌に吸盤が張り付いてくる。コレは新鮮だ。どうやら音楽で言うところの「サビ」に差し掛かっているらしい。波で荒れる若狭湾の、力強い生命力が口の中に押し寄せる!鳴り響くコントラバスの低音が、雄大な海を連想させる。激しくかき鳴らされる第一ヴァイオリンの技巧が波を切り裂き冴え渡る!さすが、このイカは一流だ。
・・・「ヴヒィー!イカ美味えー」!!ナナハン君がビール片手に叫ぶ。
・・お祭り屋台のイカ焼きぢゃあ無いんだよ?気を取り直してお鍋の蓋を開けてみる。

少しヤボだが、あえて言葉で表すならば、貴婦人だ。
お鍋の透き通る様なスープに、静かに込められた微かな味わいに私は耳をすませる。遠くから聞こえる込められたリズムに舌を澄ませるのだ。ほら、聞こえてきた。私はそのワルツにゆっくりと身体を合わせてステップを踏み出す。ワンツー・ワンツー。鍋と私の息が、少しずつ合っていく。そこには調味料という野暮な概念は存在しない。出汁のみでいこう。こんな経験は中々出来ることではないのだ。静かな湖畔に鍋と2人きりで取り残された様な、バランスをひとつ崩すだけで失われてしまいそうな、そこにはまさにその鍋にとっての思春期のような多感さとその時のみの輝きがあった。そんな危うさの中で私はほんのひと時の奇跡を楽しむのだった。食事を「摂る」のと「楽しむ」のは違うのだ。これほどの料理を前にしたら、時間をかけないのは失礼に当たる。瞬きの音がしない様に静かに瞼を閉じると、次の瞬間、青く綺麗な小鳥が森の木の枝に降りる。カメラマンはなるべく邪魔をしない様に、遠方からファインダーを覗き込む。鳥も私も良く支度された食卓の前では自然の一部なのだ。絞る様にシャッターを切ろうとするその刹那・・

「ズゾゾゾゾっ!ばばばばあっ!」
小鳥は空に飛んでいき、いつのまにかワルツは聞こえなくなっていた。あたりは急に暗くなり、汚い雨雲が空を汚していた。瞼を開けると、ナナハン君が茶碗蒸しをガツガツ貪っていた。
「これ、ウメえッすよ!」ンガンガ!!
その満面の笑みは、ビッグマックを頬張っている時と同じものだった。
ご覧いただいたように、今回の宿は全てにおいて完璧と判断した。勝手ながらここに『2023ワーマーズセレクション金賞』を贈呈させていただきます。全国のワーマーが安心して楽しめる宿だと言うことは、わたくしヤブイヌが保証しよう。
コメント
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こんな民宿を探してました!ナイスな情報ありがとうございます!