任務は最終日、ついに三日目を迎えた。三日もたつと任務そのものも何だったのか覚えてはいないが、とにかく課されたタスクを淡々とこなす。もちろん肉体的なダメージは相当なものだが。

悔しいがやはりベストチョイス【TRACER9GT】
そういえば、昨晩あたりからTRACER9GTに乗っている。基本的にはMT-09や、XSR900と同じエンジンである。フレームなども前半分は共通だが、乗り比べた限り明らかに違う特性に感じる。これは錯覚の可能性もあるが、乗り比べると全然違うのだ。今回の二台にそれなりに乗り込んだ後、TRACER9GTに乗るとまず感じるのはエンジンの滑らかさだ。明らかにXSR900とは違うのだが、具体的には「静か」なのだ。XSR900が野性的で三気筒らしいザラついたフィーリングを全身で感じるのに対し、TRACER9GTはよく調教されたようなサラサラな雰囲気だ。例えば同じ「平らな路面」でも、道路などでみられるアスファルトはざらついた表面で、立体駐車場などのコンクリートだとツルツルな感じだ。あくまで比喩だが、それくらい違うように感じた。考えられるのはガソリンタンクの容量アップによるエンジンとの距離感の違いやハンドルバーの違い、ナックルガードなどによるハンドル自体の重さの違いなどで振動を感じにくいだけかもしれないが、とにかく快適だ。そして風の当たらなさやグリップヒーターの有無などは11月の東北ではありがたい限りだ。ちなみにグリップヒーターは10段階調整ができるが、実際に外気温が5℃程度だと、冬用のグローブ使用で5がちょうどよかった。試しにMAXの10にしてみると、熱くて途中で戻してしまった。

吸い込まれるように気持ちのいい秋の景色を感じながらTRACER9GTを走らせる。GTの名前に恥じることなくライダーに景色を楽しませる。そんな余裕が生まれるのはやはりツアラーモデルならではだろう。秋の紅葉ツーリングは景色は素晴らしいが、寒いのだ。
さらに関心させられるのは、今回はかなり荷物が多く、それを積載の優秀なTRACER9GTに集めているのだが、かなり重量があるにもかかわらずそれを感じさせないところだ。もちろん取り回しのシーンでは積んだ分だけしっかり重いのだが、ひとたび走り出せば嘘みたいに軽くなる。正直今回使用した三台の中で、最も長く乗っていたいと思わされたのはTRACER9GTだ。明らかに快適なのに、それでいて楽しいのだ。過去にも様々なツアラーモデルが各メーカーから販売されているが、どれも素晴らしく快適な代わりに何か重要な部品をつけ忘れたかのように、すぐに飽きてしまう。もしくは過剰な設計によるライダーを置き去りにしたようなマシンが多かった。TRACER9GTには数多のツアラーが置き忘れたはずの部品がしっかりついているのだ。
ツアラーモデルを開発するにあたって忘れてはいけないことは、快適さばかりを車に近づける事ではなく、いかに苦痛を和らげながらライダーを楽しませるかがポイントかもしれない。そんな事をTRACER9GTはワイルドかつ滑らかな三気筒サウンドとともに雄弁に語りかけてくる。
しかし、さすがに疲れているのか、視界が定まらなくなってきた。まるで夢の中の景色のように秋が流れている。電信柱がびゅーん。あっという間に過ぎていく。
かと思えば、次の電信柱がびゅーん!
また、過ぎていく。ビューン!
いったい何本あるのだ・・。
・・・これはワナか?何かの催眠にかかったように、景色が現実からかけ離れていく。
一本びゅーん!
二本びゅーん!

電柱に意識を向けていると、交通安全ののぼりが不自然に増えていた。半分は霊魂の仕業だが、あなたにはどれが本物か見分けることができるだろうか?昔掲げられていたのぼりは劣化し、やがて撤去された。しかしその魂は色あせないのだ。

そうこうしているうちに電信柱も幽体離脱を始める。ひとつは上が透けていて、実体がない。もう一本は足がない。どちらが本物か見分けがつくだろうか?これを見抜くのがスパイの腕の見せ所だ。

これは危険だ。走行することすらままならなくなっている。そろそろ一度止まって眠眠打破を摂取しなくては。
このようにして、連泊を伴うツーリングでは本人の予想以上に疲労は蓄積していく。バイクでの居眠り運転は現実に起こりうるのだ。

いよいよ我々の旅もフィナーレに近づいてきた。今回のツーリングで得た知見は、やはり三台入れ替わりで乗り比べることによるものが大きい。季節の移り変わりや走る場所によって乗るたびに発見がある、それもバイクの魅力なのだ。次回に続く
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