私の名前はヤブイヌ。もちろん本名ではない。スパイという職業柄コードネームが本名の代わりだ。もちろん国家機密に関わる特殊な任務を帯びているが、ご想像の通りここでは割愛することにしよう。今朝は11月という割に天気が良く、任務を遂行するにはちょうど良い。祝日という事もあり町は浮かれている。巷は3連休と旅行支援で人が溢れているのだ。私はひとつゆっくりと息を吐くと、おもむろにXSR900に跨った。最近のお気に入りだ。このベイビィには機動性を上げるため、バーエンドミラーを外してBOLTのミラーを奢ってある、COOLだ。ギアを入れ、クラッチを繋ぐとブルーのタンクが眩しいベイビィがゆっくりと走り出した。

ワイルドで硬派な【XSR900】
高速に入り快調に速度を上げる。ミラーを見ると、後ろには2台のYAMAHA車が映る。スナネコの乗るYZF-R7と、ツチブタの乗るTRACER9GTだ。もちろんコードネームである事をお忘れなきよう。さて、耳をすませてしばらく静かにベイビィを走らせてみると、色々なインフォメーションが飛び込んでくる。特に他のバイクよりも際立って感じるのは、路面からの細かな振動がリアルに伝わって来るのだ。スポーティな走りをベイビィにさせた時は、路面の分かりやすさ、掴みやすさやアスファルトのざらつきまで、まるで素手で撫でているかのような感覚になったもんだ。今回のステージは東北道、一定速度で走り続けると割と揺さぶられる。その振動の出処を考えてみると、まずはタイヤの空気圧だ。標準でフロント2.5のリアが2.9だ。明らかに高い。そこに軽量のスピンフォージドホイールが合わさるので、高速の継ぎ目や細かな荒れまでリアルに伝えてくる。重さや柔らかさから来るゆとりはほぼ無く、全てを拾ってライダーに伝える。デザイン上タンクが長いのもあり、油断するとハンドルに体重が乗りやすいので乗り方によっては両腕が疲れやすい。ハンドルには常に路面のご機嫌状態が伝わって来るので色々な意味で味が濃い。さらにシートは薄く硬いので、デフォルトでは硬めのサスペンションと相まって、全身でバイクを感じる事が出来る。ひとたびスロットルを捻れば、「カオオオオオッ!」と勇ましい吸気音を響かせて加速していく。新生XSR900は味の濃いマシンだ。たまに無性に食べたくなる様な、快適性はある程度スポイルしながらもバイク乗ってます感が強いスパルタンかつ愛おしい仕上がりに惚れぼれだ。

やがて旧喰丸小学校に到着。観光地化が進み、休日という事もありとてもにぎやかだ。そんな喧騒の中に過去の残り香を探す。




束の間の小休止のあと、足を進める。山々は紅葉に染まり、落ち葉がサクサクの九十九折りをヒラリヒラリと走り抜ける。この10年位で随分と身のこなしは軽くなったものだ。割と疲れも出ていたので、ドライブモードは1番緩い「4」に設定してある。極低速域のギクシャク感が1番低く、走りやすい。たまに「1」に入れてみるも、バイクとの対話がクリアすぎて疲れてしまう。昔はレインモードすぎてかったるかったモード1も、普段使いでは1番使いやすかったけれども今はモード「4」が心地よい。夕方の冷気に包まれながら宿へと急ぐ。



宿に着くと、スタッフさんの暖かい歓迎と食事が待っていた。コレはありがたい。


「お食事の準備が整いました。どうぞ食堂へいらして下さい。」誘われるがままに我々は食堂とやらに向かう。


目の前に並んだ山の幸をひとつひとつ咀嚼して行く。コレは美味い。普段あまり口にしない生ビールを飲んでみる。料理と相まって旨い。ゴクリ、ゴクリ。冷たい喉越しが一層食欲を誘う。
「コレはほとんどこの辺りで採れた食材です」いつの間にかシェフが立っていた。纏うオーラは只者ではない。

なんだ、この緑のトマトは。戸惑っていると、「元々トマトは緑色で出荷され、市場に出るまでに熟れて赤くなるのです。出荷前のとまとを酢漬けした物がそちらです。ナンゴウトマトといいます。」
なるほど、シャキシャキして美味しい。こんな食べ方があったのか。ビールが進む。ゴクリ。

「続いてはヒラタケです。世間では高級食材です。召し上がれ。」
どれもこれも不思議なほど繊細かつ意味を持った味付けがされ、一品一品が料理として主張するのではなく、全て揃って一つの作品となっていた。シェフの説明にも納得させられる。
グビグビグビビビビー。
視界が曇る。少し酒が回ったか、それともワナか?

「お次は味噌汁で御座います。温まりますよ。」
うん,美味しい。小さな魚が沢山入っている。「何の味噌汁なんですか?」
「メダカでございます」
??
「メダカの味噌汁です。この辺りは山ですから川の魚になりますよ。その辺で捕まえて入れました。新鮮です」

「あなたはメダカの味噌汁を飲んでいるのです。」
鹿のシェフは言う。美味しいですか?美味しいですか?・・・
・・・いつの間にか眠ってしまっていた。飲みすぎたのだ。変な夢を見たものだ。部屋に帰って寝なおそう。こうして福島の夜は更けていくのだった。続く。
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そうそう!こんなノスタルジックな場所に泊まりたかった!このコースそのままいただき!