斧神再臨(ふしんさいりん)
・・これ以上ふるまう人数を増やすなら、肉が足らなくなるな。
ナナハン君は今までの罠に頼る猟に不満がある様だった。
ナナハン:「そもそもワナは肉に対して卑怯じゃねえか?お互いリスクをとって勝者が弱者を食べる。これが摂理だろう。」
ナナハン:「あの斧を盗もうぜ!ジョンのやつ!」
村人:「それはまずいですよ、あれはこの村で最も神聖なものですし、それで捌いた獲物を我々が食べるなんてとんでもない罰当たりです。」
誠司:「ナナハンさん、私がギッてきましょうか?」
ナナハン:「おお、話が早えな!とりあえずギッて来いよ!」
静かな夜の山道を、鈍い金属音が響いていた。
斧が振るわれるたび、しなるような音とともに、山の空気がざわめく。
ナナハン君が振るうのは、村に伝わる“ジョンの斧”。この村で祀られている神・ジョンが最後に残したという、血の匂いを帯びた呪具だった。
だがナナハン君の手にかかれば、その呪具すら狩猟用具へと変貌する。
女将やマキ、修一郎はまだ疑うような目でナナハン君を見ていた。
タァーン!
「……見てみぃ!この斬れ味!」
ナナハン君が斧を振り下ろし、横たわるヤヴイヌの尻の肉を一部勢いよく切り落とした。
「なんてことするんや!」マキが叫ぶ。
「行くぞ誠司!」
ナナハン君は気にも留めずに斧を振り回しながら、山へと消えていった。
ナナハン君が斧を投げると、斧はブンブンいいながら回転し、獲物を片っ端から切り刻んでいった。
「ブヒー!こいつぁ三匹はまとめて獲れるで!」
すでに鹿が一頭、猪が一匹、猿が一体、地面に転がっていた。誠司はその光景を呆然と見つめていた。
「……まるで、神がかってる……」
「そうやろ?これが斧の力や」
ナナハン君はにんまりと笑い、斧の背で肩を叩いた。
「せやけどな、斧だけじゃねぇぜ。信念だ。肉のために生きる、その覚悟だ」
「……おれ、ちゃんと役に立ってますか?」
「立ってるどころか、誠司、お前は俺の“肉の家族”だ」
「に、肉の……」
「肉の血は、水より濃いんだぜ」
誠司は意味が分からなかったが、ナナハン君がご機嫌だったので気にせず獣を担いで山を下った。
***
翌日の夜もまた、廃墟の“宴”は続いていた。
冴子が用意したのは、炭火焼きの猪のスペアリブ。
脂の乗った肩肉を低温でじっくり焼き、骨の際の旨味を閉じ込める。
タレは赤味噌と梅肉、蜂蜜、山葵を合わせたオリジナル。
香ばしい湯気が立ち昇ると、集まった村人たちの腹が一斉に鳴った。
「……これが、“極食”や」
冴子の声に、食らいつく村人たち。
誠司の妻・絵理も、その中にいた。
一口食べるごとに、体力が戻るような感覚に包まれた。
「……体が、満たされていく……」
冴子は頷いた。
「本当の料理ってのは、体と心、両方を育てるもんや。そうやろ、ヤヴイヌ」
傍らに置かれ、尻が欠けたヤヴイヌの遺体が、ふいに火の揺らめきで微笑んだように見えた。
***
一方、村では異変に気づく者も現れ始めていた。
「最近、夜に人が減ってる気がせんか?」
「いや、気のせいやろ……たぶん」
村長の周囲でささやかれる噂。だがまだ“極食革命”の火種には気づいていない。
冴子たちは急ぎながらも慎重に、村人を一人、また一人と“目覚めさせて”いった。
全ては、ジョンの斧と、ナナハン君の暴走する狩猟力によって支えられていた。
だが、冴子の瞳には不安の色もにじんでいた。
「……斧は、狂気を呼ぶ。あれは道具やない。思念や」
その言葉に、誰も気づかぬまま——次の宴の準備が始まろうとしていた。
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