一章 肉は厚けりゃ正義
おれはな、肉が好きなんだよ。
小難しいことはわかんねぇけど、肉がドーン!としてて、ガツガツに口ん中で暴れてくれるやつ。そういうのが最高なんだよ。
名前? ああ、「ナナハン君」って呼ばれてる。
由来は知らねえ。
ある日、観光協会のホームページ見てたら「馬肉専門店」って書いてあってよ。
“馬”って響きがもう最高。デカいし、力強いし。食うしかねぇと思ってさ。で、行ったわけよ。
店構えは小洒落てて、ちょっとアレだなって思ったけど、まあ、肉の味にゃ関係ねぇし。
メニュー見て思ったね。
「え、これだけ?」
馬肉丼。一択。潔いっちゃ潔いけど、量がよ。
実際、出てきたやつ見たら、ネズミかと思った。こんな量で馬って言われてもな。
おれ、ネズミにも感謝しなきゃならんのか?
「もうちょっと盛ってくんない?」って言ったら、奥さんみたいな人が「これで十分なボリュームです」ってにこっと笑ってさ。
でもさ、おれは思うわけよ。笑顔で騙されるのがいちばんムカつく。
だから、言ってやった。
「これ、ネズミじゃね?」
で、ブヒブヒ食って屁かまして帰ったわ。悪い店じゃなかったけど、オレの欲求は満たされなかったな。
二章 あの料亭の話
それから数日後、「隣町に新しくできた和食料亭に招待されてる」とかなんとか。
馬肉のフルコースが出るって言うからさ。ついでにビックマック的な三段丼もお願いしたのよ。
オレ、期待してたんだ。あのとき果たせなかった夢——“馬のビッグマウンテン丼”。
料亭は静かで、畳はふかふかで、なんか場違いだったけど……でもまあ、肉のためならな。
でも出てきたのが、ちっちゃい皿のオンパレード。
ひと皿に肉が3切れ? なめてんのか? レスラーだぜオリャ?
「量、少なくね?」
「三段丼は?」
そう言ったら、料理人っぽいやつが黙っててよ。まじで、腹の足しにもなんねぇ料理で黙ってるとか、もはや拷問よ。
で、怒ったわけじゃないけどさ、出たよね。
「なんだよこの店も! 量ねぇし、味普通だし、雰囲気ばっか立派で中身スカスカ!」
——別に思ったことを言っただけだぜ。あんなんじゃ客は満足できねえだろ?
料理人、ガシャッと音立てて厨房行って、何か「バキィィン!」って折れる音がした。
何か、折ったらしい。皿か? 気合か? 知らんけど。
とにかく、店はしーんとなって、おれは靴履いてマック行ったわ。
「まあ、流行りの店とやらもあの程度だな」ってそれだけ。
俺が作った方がよっぽど売れるわ。
ブッ!!
おっといけねぇ、ちとトイレ行かねえとな、拭いてくるわ。
三章 斧のこと
三日後、なんか料理人のやつ裏手に馬の肉隠しているような気がして、またその店行ってみた。
だっておかしいだろ?あんなにでかい馬から破片だけ客に出して、残りはどこ行ったのよ。
ところが店閉まってんの。
でも、オレなりに“誠意”はあるんだよ。
ジョンが昔アメリカで使ってた斧が家にあってさ。錆びてて、野生動物とか両断してたって話なんだけど、「馬さばくならこれでいいんじゃね?」って思って。
玄関先に斧持って行ってさ、
「これ、やるわ」って渡したのよ。
なんか職人っぽいやつ、ぽかーんとしてたけどさ。
「斧? なにこれ?」
「“JOHN”の斧だ。英語でカッコいいだろ? おれ、直感で生きてっから」
——これで、通じただろ?
終章 そろそろ気づけやポンコツ料理人ども
オレは肉が好きだ。
おしゃれな盛り付けも、手間ひまかけた出汁の香りも、ぜーんぶどうでもいい。
“ドーンと盛れ”。
オレはただ、それが言いたいだけだった。
海に浮かぶゴミを拾ってきてお湯に浮かべて出汁とか言ってる間抜けな料理人。出汁が欲しけりゃタバスコかけろ。
おしゃれな食器?馬鹿か!洗面器があんだろ。食器かじって喜ぶ客がいるか!
せっかくアドバイスしてやっても、なんか皆、しゅんってしちゃってさ。
包丁折るとか、マジメか。
斧で馬さばくのだって、オレからすりゃロマンある話よ?
そんなに落ち込むことか?
けどな、なんか気づいちゃった。
オレ、もしかして——
あいつに料理人としての神髄を教えてやったのかもな……。
今頃あいつも喜んでいるだろうよ。
ブッ!
おっといけねぇ、行かねえと。みんな、またな! FIN
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