アニマルスパイツーリング【トリシティ300とXSR155】東海編 vol.1

さあ、新たな任務の幕開けだ。早速我々は新東名を抜けて西へと向かう。記憶に残るほど暑かった2023年の夏はいつのまにか過ぎ去り、11月の終わりに差し掛かりようやく冬らしい気温となっていた。ふと見ると外気温度計は10度を指している。凛とした空気を切り裂きながら、我々はひたすら走り続ける。今回の私の相棒は、トリシティ300。車格があり、三輪の中でもひときわ安定感が際立つ。

ここで今回のメンバーを紹介しておこう。私ヤブイヌ、そしてナナハン君、痰吐きアルパカ、丸まりバンゴリンの4体だ。しばらく走ると、身体が冷えてきた。「なんか食いましょう」ナナハン君が提案する。あまり気乗りしなかったが、調和を優先し同調しておく。「いいっすねえ」。

意気揚々と闊歩するナナハン君。

我々は浜松のサービスエリアで食事をとることとした。ナナハン君の弾む背中を見ていると、悪い予感しかしない。一体彼はこの先にどんなご馳走が待っていると思っているのだろうか。

怪しいメニューが並ぶ。読者諸君はこの地雷原を無事に駆け抜けることが出来るだろうか?

1番ローリスクローリターンなのがうどんだ。うどんを不味く作ることはある一定の才能を要求されるほど、難易度が高い。その代わり予想通りの味しかしないので、ペヤングを買うのと同等の感覚と言えよう。

お次はこれ。もちろん興味はあるが、そもそも予算オーバーだ。高速のSAで食べるものでは無い。美味しい鰻はこんな所には遡上してはこまい。分かっていてあえて注文、(いや散財と言っておこう)するのは一興だが、そういうプレイは老後に取っておこう。

ラーメンはSAでは選ばれ易い食材の一つだ。ただし、地場のタイトルがついたものが多く、その手は信用してはいけない。特にSAでは。外した時に地名ごと嫌いになるリスクを孕むのだ。

うっかりコイツに騙されそうになる。消去法で選びそうになるが、踏み止まる。ファインプレーだ。

名産っぽいトンテキ定食。なかなか難しい。トンテキとは、豚肉をステーキ風に厚切りにして、それに濃いタレ(例によって風味を全て消してしまうニンニク入りだ)をかけたものだ。なんと雑な発想なのだろう。ハンバーガーとかと同じ感覚の食べ物だ。浜松とか言ってるがきっとニューヨーク発に違いあるまい。正直言って全て食べたくないラインナップだ。このステージに勝者は存在しないのだ。そんな舞台で踊るほど、安いダンサーでは無いのだ。私は踵を鳴らしながら軽やかにこの場を去っていくのだった。

さて問題の洋食屋のハヤシライス。「洋食屋のハヤシライスですよー、ファミレスやチェーン店のハヤシライスでは無いですよー。」という意味なのか?基本ハヤシライスを出す店は、広義の意味では洋食屋である。あえて書くということは、誇張された「洋食屋」を言っているのだ。しかし、本物の洋食屋はサービスエリアになど出店しないのだ。少し下町の街中にひっそりとした明かりを灯して、グルメさんを待っているはずのものなのだ。ふとブイヨンの柔らかい香りに惹きつけられて立ち寄ると、素敵に透き通ったコンソメスープがお出迎え。それが本物の洋食屋なのだ。トイレついでに処理の食事をするような場所にはあるわけがない、罠であろう。

そんなことを考えていると、

「ブヒブヒブヒー!おいどんはオムハヤシにするどーん!」

オムハヤシ!数多のメニューからオムハヤシをチョイスするとは、流石である。もちろん声の主は賢い読者諸君ならお気づきと思うが、安定のナナハン君である。まるで小学生のようなはしゃぎようだ。きっと小学生をバスで連れてきてここで選んでもらったら、1/3はオムハヤシだろう。残りはカレーとハンバーグだ。

まるで飛行機のように両手を広げながら、お店に走っていく。キーン!

満面の笑みで「オムハヤシくーださーいなー!」

「あらごめんなさーい、ちょうどあなたの前で売り切れちゃったのよ〜、ごめんぁさぁせ、ヨホホホ!」

容赦ない強烈なカウンターパンチがナナハン君の顔面を捉える。ナナハン君の顎が跳ね上がる。この瞬間ノックアウトだ。

[秋深く 心はすでに オムハヤシ]

彼の辞世の句がこだました。

さて、私といえば今回はノーチョイスとする事にした。ここに心を満たすメニューは存在しない。しかし何も食べないのも他のメンバーに失礼に当たる。こういう時は1番無難なメニューをセレクトするとしよう。ここでは消化試合の様な栄養補給に徹して、うどんにしようじゃないか。それもとことん何も入っていない素うどんに。ただし、タンパク質の補充にとり天と温泉卵を追加。これで一食に必要な20gだ。正直なんでも良いのだ。

今回の食事には処理している感が否めないが、毎回勝利を狙うとロクな事がない。今回は補給に徹して、その分次回の満足度を上げるのだ。ふと振り返ると、後ろには痰吐きアルパカとナナハン君が同じうどん屋に並んでいる。2人とも思考停止でついてきた感じだ。特にナナハン君はオムハヤシにやられた後なので、抜け殻の様だ。抜け殻がここにいるという事は、中身はどこに居るのだろう。きっと天国でオムハヤシの山を登山しているのかもしれない、蝉のように羽ばたいて。

痰吐きアルパカは、同じくうどんをチョイス。真意が私と同じなら、なかなか見どころがある男だ。肉の追加は若さゆえか。

天ぷらが2つあるが、一つは私があげたものだ。キャンペーンで揚げ物がついてきたが、不要だったため食べてもらった。

なんとなく選ぶものがなくなりうどん屋に来たナナハン君は、起死回生を狙いカレーうどんをチョイス。カレーうどんならうどん屋の中なら1番食後に満足できると踏んだのだろう。食事満足度に対する未練が感じられる。コロッケや天ぷらにも甘だれをかけてインパクトを狙う。しかしそれは悪手だ。ヒロインのいない映画では、全てが虚しく響くのだ。緞帳(どんちょう)を無理やり上げるべきではない。今回は極力記憶に残らない食事に徹する事によって、夕食にかけるのだ。繰り返すが、いつも勝利をとる事は出来ない以上、負け方が重要なのだ。その点では引き際を知るアルパカが一枚上手だと言える。

温泉卵からカラザを取り除くのは至難の業。次回に続く。

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